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施設在宅について~2024.10.24磐田在宅医療懇話会より~


地域医療の現場では、在宅診療がますます重要な役割を担っています。
2024年10月に開催された磐田在宅医療懇話会では、訪問診療の実態や施設との連携によって実現される「在宅医療と施設のあるべき姿」が語られました。
その講演から見えてきた、施設と在宅診療の未来、そして課題を紐解きます。
★講演についての記事はこちら

★講演の様子は貞栄会公式YouTubeチャンネルよりご確認ください★

クリニック誕生の背景

実は、当法人の訪問診療は、クリニック側の計画的な展開ではなく、地域の施設亜kらの要請に応じて発展してきました。地域の声に耳を傾け、患者やその家族のニーズに応える形で広がってきたこの訪問診療には、深い思いが込められています。
この背景には、「患者様が誇りと尊厳のあふれる人生を全うし、ご家族が命を受け継ぐ一助となりたい」というクリニックの理念があります。これは単なる医療提供にとどまらず、患者の人生を最後まで支えることを目指しています。

訪問診療は医療行為そのものはもちろん大切ですが、その根底には「人間らしい生活」を守るという信念があります。
クリニックのスタッフは、ただ病を治すだけではなく、患者が日々の生活の中でも心の安らぎを感じ、家族と共に過ごすかけがえのない時間を大切にするためのサポートに全力を注いでいます、

また、地域の施設からの声によって形作られた訪問診療は、地域コミュニティとの絆を深める機会でもありました。これにより、施設のスタッフや家族との信頼関係が築かれ、医療チームと一体となって患者を支える「顔の見える関係性」が生まれました。こうした関係は、いざという時の迅速な対応を可能にし、患者と家族に安心感をもたらします。結果として、医療と生活の境界を超えた「支える力」となって地域に根付いています。

このように、当法人の訪問診療は単なる医療の提供ではなく、患者とその家族にとって生涯の安心を支える存在であり続けることを使命としています。


連携を深める取り組み

訪問診療が地域での重要な医療サービスとして認知されるようになった背景には、施設との緊密な連携があります。
かつては、施設訪問診療が定期的な訪問を中心としており、患者の急な体調の悪化や看取りに関しては、施設から病院に戻されることが一般的でした。
こうした対応は、患者や家族にとって精神的な負担が大きく、施設側も十分な対応ができないことへの悩みを抱えていました。

このような状況を改善するために、当クリニックは施設側との定期的なミーティングを重ねました。
これにより、医療と介護の双方が率直な意見を交換し、患者を中心とした包括的なケアを提供するためのサポート体制を構築しました。これらのミーティングは、時には課題を突き付けられながらも、問題を一つずつ解決し、信頼関係を強固にしていく場として機能しました。
単に医療行為を行うだけではなく、施設スタッフが安心して患者に向き合える環境を整えることが目指されました。

また、密なコミュニケーションを重視し、「顔の見える関係性」を構築することが、訪問診療の成功のカギであることが再認識されました。
医師や看護師が施設のスタッフや患者の家族と顔を合わせ、日常的なやり取りを行うことで、ちょっとした相談事や不安に迅速に対応できる環境が生まれます。これにより、患者の状態変化に早期に対応し、病院に搬送する前に必要なケアを提供できる体制が整い、結果として患者の生活の質が向上しました。
こうした取り組みは、施設スタッフの負担軽減にもつながり、双方にとってのメリットをもたらしています。

連携の深化は単なる医療技術の提供を超えて、地域社会全体に安心をもたらすものです。
クリニックと施設が協力して築いた関係は、患者と家族にとって信頼と安心を生む基盤となっています。

笑いのある看取り

「笑いのある看取り」というフレーズは、一見すると不謹慎に思われるかもしれません。
しかし、この言葉が示すのは、患者と家族が最期の時間を共に過ごす中で、生まれる安らぎと温かさを大切にする姿勢です。この取り組みの核には、患者が自宅という慣れ親しんだ場所で、家族に囲まれながら人生を全うできるよう支援することが含まれています。
訪問診療の役割は、患者の身体的な苦痛を和らげるだけでなく、家族の心の負担を軽減し、共に最期を迎える準備を整えることにもあります。

当法人では、患者と家族に寄り添うために、複数回にわたるACP(アドバンス・ケア・プランニング)を実施しています。
これにより、患者の状態や希望に応じた看取りの方針を共有し、家族が後悔のない選択をできるようサポートします。
また、急変時には連日訪問を行い、家族が一人で不安を抱えることが無いよう、医療チームが一丸となって支援を行っています。
家族は患者の最期の瞬間に立ち会い、「あの時こうしてよかった」と思える体験を得ることができます。

こうした取り組みは、地域の中で高く評価されており、看取りを経験した家族のおよそ半数より、感謝の手紙や温かい言葉が送られてきます。
「あの時、家で看取れて本当によかった」という声が、医療チームの支えとなり、地域での在宅医療文化をさらに深める原動力となっています。
「笑いのある看取り」は、単なるフレーズではなく、患者と家族、そして地域全体が「生きること」や「見送ること」の意味を再発見する大切な理念なのです。


医療3割、生活7割

在宅という環境下では、患者が自分らしい生活を維持しながら必要な医療ケアを受けることが求められます。
このため、「医療3割、生活7割」のバランスを保つことが、訪問診療の本質的な役割となります。
単に病気を治療するだけでなく、患者の日常生活を支え、生活の質(QOL)を高めることが重要視されています。

特に、訪問診療では治療が終了した段階で終わりではありません。
例えば、長期の治療や入院後に弱った体力の回復や、日常生活への順応をサポートすることは、患者や家族にとって大きな安心につながります。このように、医療と日常をつなぐ「橋渡し役」としての訪問診療の存在が、患者の自立を支える大きな力となります。

また、看護師による細やかなケアは、医療と生活の調和を実現する上で非常に重要な役割を果たします。
褥瘡の処置や点滴といった専門的な医療行為はもちろんのこと、患者が安全に日常生活を送れるよう、身体の状態や生活環境を総合的に見守ることも看護師の役割です。
例えば、患者の寝具の調整や口腔ケア、リハビリを兼ねた軽い運動の支援など、生活の細部に目を配りながらケアを提供します。

「医療3割、生活7割」という考え方は、医療中心のアプローチから、患者の生活を中心に据えたアプローチへのシフトを示しています。
患者が自宅で快適に過ごし、家族とともに日常の中で笑顔を取り戻せるようにすることが訪問診療の真の目標です。
このバランスを大切にすることで、医療が患者の生活を支え、生活が患者の心と体を癒すという好循環が生まれるのです。

施設在宅の課題とこれからの展望

訪問診療は、施設との連携においてさまざまな課題があります。
特に、医療チームの勤務環境の改善施設スタッフとの効率的な連携は、持続可能な在宅医療を実現する上で避けて通れない重要なテーマです。患者や家族に寄り添いながら質の高いケアを提供するには、医療従事者と施設スタッフ双方が働きやすい環境を整えることが不可欠です。

例えば、施設での24時間体制のケアを支えるために、訪問診療は定期的な診療だけでなく、急変時や終末期にも柔軟に対応することが求められます。しかし、こうした取り組みが医療スタッフや施設職員の負担を大きくしている現状があります。
この負担を軽減するためには、施設内のスタッフとの役割分担を明確にし、効率的に連携できる体制を構築する必要があるのです。
また、施設スタッフとの連携を強化するため、医療チーム全体のスキルアップを図る研修やミーティングを定期的に行い、課題解決力を高めることが求められています。

また、施設スタッフへの教育やサポートの充実も欠かせません。
訪問診療に携わる医療者が施設スタッフと共通の知識を持つことで、チーム全体の連携がスムーズになります。
これにより、患者の状態変化に対する早期発見・早期対応が可能となり、患者の生活の質の維持や改善にもつながります。

施設と連携した在宅医療の質を向上させるためには、こうした課題に一つひとつ取り組んでいくことが重要です。
施設の声に耳を傾け、医療と介護の現場が共に成長できる仕組みを整えることで、訪問診療はさらに発展し、多くの患者や家族に安心を届ける存在となるでしょう。
このような取り組みは、施設運営の効率化とともに、地域医療全体の向上にも寄与する大きな可能性を秘めています。
※本コラムの内容は、2024年10月24日に開催された磐田在宅医療懇話会の講演内容をもとに一部加筆・編集したものです。