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Home >  在宅診療の教科書 >  食事内容は重要。無理なく栄養を摂れる方法を検討

食事内容は重要。無理なく栄養を摂れる方法を検討


高齢者が在宅で生活を続けていくとき、食事はとても重要です。
十分な栄養を摂れていないと筋力も衰えますし、感染症や肺炎を起こしやすくなります。栄養不足によって、認知症や褥瘡が悪化することも知られています。
そうした目立つ症状が出る以前にも、年を取って食事量が減っている正体が続くと、食べ物を食べて体のエネルギーをつくるという基礎的な体力がそもそも落ちてしまいます。
つまり食べないから体力が落ち、体力が落ちるからさらに食べられないという、悪循環に陥ってしまいます。

特に日本人の平均的な食事は、ご飯と味噌汁、漬物という感じで糖質や塩分が多くなりやすい反面、筋肉を作るたんぱく質は不足しがちな傾向があります。
論文(The effect of obesity on disability vs mortality in older Americans. Arch Intern Med. 2007;167:774-780)によるとBMI27が最も死亡リスクが低いといわれていますが、日本の要介護者は平均18.1(やせ)で、そもそも日本の高齢者は基本的な食事が足りないという指摘もあります。
高齢になったら、むしろ、たんぱく質を意識して摂ることが大切です。筋肉を維持するために摂りたい1日のたんぱく質摂取量は、体重(kg)×1g、つまり50㎏の人であれば50gです。スーパーやコンビニで売っているサラダチキン1つでたんぱく質約20gですから、かなり意識して食べないと、筋肉は維持できないことがわかります。日々の食事で肉類、魚介類、卵のほか、牛乳やチーズなどの乳製品、豆腐、納豆といった大豆製品を毎食しっかり摂るようにしてください。

3食の食事だけで必要量を摂るのが難しいときは、筋トレをする人たちが飲用する「プロテイン」を摂るのも一案です。健康に良くないイメージがあるファストフードのハンバーガー(特に肉の多いダブルサイズ)を手軽なたんぱく源として勧める医師もいます。その人にとって食べやすい、摂りやすい方法で栄養を摂ってもらえればと思います。

ただ現実問題として、高齢になるほど、慣れ親しんだ食習慣を変えるのは容易ではありません。特に一度、食事量が減ってしまった人では、食事だけで必要な栄養を摂るのは困難でしょう。
そうしたときに上手に栄養を摂る方法として注目されているのが、ONS(経口的栄養補助)食品の活用です。

ONSは病気や加齢による衰えなどで、食事だけでは十分な栄養を摂れなくなっているときに、効率的に栄養を摂るための食品(医薬品)です。糖質、脂質、たんぱく質、ビタミン、ミネラルといった栄養がバランスよく濃縮されて含まれており、とろりとした液状やゼリー状のものが多いため、水分補給や食間のおやつといった感覚で摂取していただけます。
食事だけでは十分な栄養を摂れない高齢者や病後の人が、ONSにより合併症の発症や再入院が少なくなることも確認されています。
ONSで栄養を補うことで、栄養の土台がしっかりして基礎体力がついてくると、再び食事量が増えてくることもよくあります。

栄養不足で心身の状態が低下していた人では、ONSと食事を組み合わせることで栄養状態が改善すると、すっかり元気が戻るケースもあります。
ONSは医師が処方する医療用医薬品の製品のほかに、「明治メイバランス」などの市販の製品もあります。
在宅医療チームの栄養士とも相談しながら、利用しやすいものを取り入れていただくといいと思います。

食欲低下や、食事が進まない理由はいろいろある

ほかにも、高齢者の食事量が減ってしまう理由には、さまざまな要素が関係しています。
1人暮らしの高齢者では、自分1人の食事を用意するのがおっくう、あるいは1人の食事が味気ないために、だんだん食事内容が簡素になり、量も食べられなくなる例があります。
そういう人はデイサービスを増やし、通所先の仲間と一緒に食事を取ると食事量が回復することがあります。

食事でむせることが増えた、口に入れた食品を飲み込めずに溜めているという場合、食物を噛む・飲み込むという嚥下力が落ちていることが考えられます。
その場合、その人の噛む・飲み込む力に合わせて、食べるものの形状を変えると食事が進みやすくなります。
嚥下力が落ちた人のための介護食には、食品を小さく刻んだ「刻み食」、とろみをつけた「とろみ食」、舌でつぶせる「ムース食」などさまざまなタイプがあります。栄養士が介護食の作り方を指導することもできますし、自宅で調理をするのが大変なときは、パック入りの介護食も市販されています。
医師や看護師、栄養士と話し合い、その人の状態に合わせて食べやすい食事へと変更していくといいでしょう。
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さらに高齢者が食べられない理由の1つとして、入れ歯が合っていないケースもあります。歯科医師に入れ歯の状態を直してもらっただけで、再び問題なく噛めるようになる人もいます。
訪問歯科医には、食べ物を噛んで飲み込む嚥下機能のリハビリについても相談できます。高齢者の食事量や食事の様子が変わったときは一度、歯科医師に相談をしておくと安心です。

最後に、高齢者や要介護の人が口から栄養を摂るのが難しくなった時は、胃ろうなどの経管栄養のお話をすることもあります。
胃から栄養を体内に入れる経管栄養は、人工的に生かされるイメージが強く、そこまでは希望しないという意向の人も最近は多くなっています。
ただ、その人の経過や希望によっては一時的に胃ろうを造設し、回復したときや逆に終末期に至ったときには、使用を減らして最終的にやめるという対応を取ることもあります。
なお、胃ろうの管理は医療行為になるので、医療職が常駐していない施設には入所できないので注意が必要です。

引用元

『事例でわかる!家族のための「在宅医療」読本』 著者:内田貞輔(医療法人社団貞栄会 理事長)
発売日:2021年6月1日
出版社:幻冬舎