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「食べること」は生きること~2025.3.17地域連携推進セミナーより~


医療法人社団 貞栄会では、「患者様が誇りや尊厳ある人生を全うし、ご家族が命を受け継ぐ一助となる」ことを理念に、日々訪問診療に取り組んでいます。医療と介護の現場で多くの方々と関わる中で、私たちが痛感しているのは、「食べること」そのものが人生における大きな価値であるということです。
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高齢者と栄養_「ちょっと痩せてる」では済まされない現実

高齢の在宅患者さんの多くは、見た目にはわからなくても、低栄養の状態にあります。
BMIが18台と言う方も少なくなく、本来なら最も死亡率が低いとされるBMI25前後からは遠い現実です。特に高齢者は筋肉量の回復が難しく、体重以上に筋肉の低下が深刻です。実際に、入院などで数日間寝ているだけでも、1日あたり1%の筋力が失われるというデータもあります。

栄養補助食品(ONS)を活用した支援は、こうしたリスクを回避する有効な手段です。食事だけで補えないエネルギーやタンパク質を、小さな容量で効率よく補うことができ、特に退院直後の回復期や介入初期には、その効果が顕著に現れます。

ONSの導入がもたらすもの

ONSの摂取によって、体重・筋肉量の減少が抑えられた症例は数多くあります。
例えば誤嚥性肺炎や大腿骨骨折後の患者では、早期から栄養介入を行った場合とそうでない場合とで、1年後、2年後の体力・体重の差が明確に現れます。早期の対応が、その後の生活の質を大きく左右すると言っても過言ではありません。

また、ONSは保険が適用されるため、経済的にも非常に優れた手段です。1割負担の患者さんであれば、わずか20円ほどで摂取でき、コンビニ等で販売されている類似品の10分の1以下の価格で提供されています。こうした「続けやすさ」も、ONSが広く支持されている理由のひとつです。

栄養支援は“生活”を見ることから始まる

在宅医療では、数値データだけでは栄養状態を判断しきれません。
冷蔵庫の中、台所の様子、食卓に並ぶもの、さらにはデイサービスの連絡帳など、生活の中にヒントがあふれています。医師が見落としがちな“兆し”も、介護スタッフやご家族の視点から得られることが多く、多職種連携の重要性を日々実感しています。

また、食形態の変化も見逃せません。常食を基準にした場合、刻み食で85%、ミキサー食で60%、ペースト食では約半分程度しかカロリーを摂れていないケースもあります。“10割食べられている”という表現の裏に、実は栄養不足が潜んでいる可能性があるのです。

食べることは、その人らしさを支える営み

あるラジオCMコンテストで、当法人スタッフが制作した「ポテトサラダ」という作品が優秀賞を受賞しました。
おじいさんが「最後に食べたい」と語った“おばあさんの手作りポテトサラダ”が、実は市販品だった__というストーリーです。

このエピソードが多くの共感を呼んだのは、食べることが“人生の記憶”と深くつながっているからです。

終末期において、食べるという行為は、単なる栄養摂取ではなく、家族と心を通わせる最後の手段となることもあります。実際に、「最期まで食べさせることができた」ことが、ご家族の心の支えになるケースも少なくありません。

食べるを支えるために、私たちができること

在宅医療の現場では、医師の一言がご家族の関わり方を大きく左右することがあります。

「食べさせるのは危険」と言われてしまえば、それまでできていた介助の手が止まってしまうこともあるのです。だからこそ私たちは、しっかりとリスクを説明し、可能な範囲で“食べる”という選択肢を支えたいと考えています。

栄養支援の先にあるもの

高齢者の栄養管理は、単なる数値の改善ではなく、“その人らしく生きる時間”をつくる医療です。誤嚥性肺炎の予防、褥瘡の回復、筋力の維持、そしてなにより「その人が自分らしく過ごす力」を支えるために、栄養という視点を忘れてはなりません。

これからも横浜在宅診療クリニックは、訪問診療の現場から、食べること・生きることの価値を丁寧に支えていきます。

食事・栄養に関するお悩み、ご相談があれば、ぜひ私たちにご連絡ください。

※本コラムの内容は、2025年3月17日に開催された地域連携推進セミナーの講演内容をもとに一部加筆・編集したものです。