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在宅医療の現場から見た、夏の高齢者の「隠れ脱水」と熱中症~命を守るための5つの対策~


うだるような暑さが続く日本の夏…。
私たち在宅医がご自宅を訪問すると、ひんやりと快適な環境で過ごされている方がいる一方で、「エアコンは苦手だから」「もったいないから」と、汗ばむような室温で耐えていらっしゃる高齢の方にしばしば遭遇します。

在宅医療の現場にいると、夏は高齢者にとって特に危険な季節であると改めて痛感されます。
ご本人が気づかないうちに進行する「隠れ脱水」が、重い熱中症を引き起こすケースが後を絶ちません。

今回は、在宅医の立場から、ご高齢の方とそのご家族にぜひ知っていただきたい熱中症対策について、「予防」「環境」「対応」の3つの観点からお話いたします。

「のどが渇く前」が鉄則!こまめな水分補給で脱水を予防

高齢になると、体内の水分量がもともと少ない上に、のどの渇きを感じにくくなります。
そのため、ご本人は「まだ大丈夫」と思っていても、体は水分不足に陥っていることが少なくありません。これが「隠れ脱水」の正体です。

何を飲むか?

基本は水やお茶(カフェインの少ない麦茶などがおすすめ)です。
汗をたくさんかいたときは、スポーツドリンクや経口補水液で塩分やミネラルも補給しましょう。ただし、心臓や腎臓にご病気がある方は、水分や塩分の摂取量に注意が必要な場合があります。必ずかかりつけ医に相談してください。

いつ、どれくらい飲むか?

「喉が渇いた」と感じる前に、こまめに飲むことが何よりも大切です。
1~2時間おきにコップ1杯の水分を摂るなど、時間を決めて飲む習慣をつけましょう。枕元にペットボトルを置いておき、夜中に目が覚めたときにも一口飲むようにすると効果的です。

「我慢は禁物」の室内環境づくり

熱中症の約半数は、実は室内で発生しています。特に日中おひとりで過ごされることが多い高齢者の方は注意が必要です。

エアコンを躊躇しない

「電気代がもったいない」「冷えすぎるのが嫌」というお気持ちもわかりますが、命を守るためにはエアコンの適切な使用が不可欠です。
  • 室温は28度以下
  • 湿度は50~60%
を目安に設定しましょう。
タイマー機能を活用したり、扇風機を併用して空気を循環させたりすると、身体を冷やしすぎずに快適な環境を保てます。

遮光カーテンやすだれの活用

直射日光は室温を急激に上昇させます。遮光カーテンやすだれを活用し、日差しを和らげる工夫も大切です。

温湿度計の設置

感覚だけに頼らず、いつでも目に見える場所に温湿度計を置き、客観的な数値で室内環境を管理しましょう。

いつもと違う?
周囲が気づくべき「熱中症のサイン」と対応

ご本人が不調を訴えられない場合も多いため、ご家族や訪問介護スタッフなど、周りの方が「いつもと違う」という変化に気づくことが重要です。

初期症状・注意すべきサイン

  • なんとなく元気がない、ぼーっとしている
  • 口数が少ない、つじつまの合わないことを言う
  • めまいや立ちくらみがある
  • 手足がしびれる
  • 吐き気がある
  • トイレの回数が減った、尿の色が濃い
これらのサインが見られたら、熱中症の初期症状かもしれません。
すぐに以下の対応を行ってください。

すぐにできる応急処置

①涼しい場所へ移動
エアコンの効いた室内や、風通しのいい日陰に移動させます。
②衣服をゆるめ、体を冷やす
ベルトやネクタイを緩め、濡れたタオルで首の付け根、脇の下、足の付け根など、太い血管が通っている場所を冷やします。
うちわや扇風機で風を送るのも効果的です。
③水分・塩分を補給
意識がはっきりしていれば、経口補水液やスポーツドリンクを少しずつ飲ませます。
意識がはっきりしない、呼びかけへの返事がない、自力で水分が取れないといった場合は、ためらわずに救急車(119番)を呼んでください。


在宅医療チームとの連携で夏を乗り切る

私たち在宅医は、訪問看護師やケアマネジャー、ヘルパーといった多職種の専門家と常に連携し、患者様の情報を共有しています。ご自宅での様子や体調の変化など、どんな些細なことでも構いませんので、訪問スタッフにお伝えください。
その情報が、熱中症の早期発見・早期対応につながります。

ご家族にしかわからない「いつもの様子」との違いは、私たち医療者にとって非常に重要な情報です。この夏を安全に乗り切るために、ご家庭での対策と共に、ぜひ在宅医療チームを頼ってください。
地域全体で連携し、大切なご家族の命と健康を守っていきましょう。