思いが未来をつくる？医療と「引き寄せの法則」のあいだで考えること | 在宅診療の教科書 | 横浜在宅診療クリニック（医療法人社団貞栄会）

「会社に行きたい」「家でごはんを食べたい」＿在宅医療の現場で、そんな想いを口にする患者さんがいます。
一見するとささやかにも見えるその願いが、驚くほど大きな力になることがあります。現代医療においても、患者さんの”思い”が、体と心の状態に大きな影響を与えることは、少しずつ知られるようになってきました。

最近SNSなどで目にする「引き寄せの法則」。
自分がなりたい未来を強く思い描き、そのために行動すれば、それが現実になるという考え方です。一見スピリチュアルに見えるかもしれませんが、実は終末期医療や在宅医療の現場でも、「強い願いが現実を動かす」場面は珍しくありません。

本人の意思が持つちから

在宅医療に関わると、「どうしてここまで頑張れるのだろう」と驚かされる患者さんに出会うことがあります。
例えば、医師から余命宣告を受けた後も「会社に戻りたい」と願い、そのために日々リハビリを続けた患者さんが、宣告を大きく超えて生き生きと過ごされている姿。あるいは、「家で最期を迎えたい」と語った方が、本当に最期の瞬間まで穏やかに自宅で過ごされた例もあります。

その背景には、本人の「こうありたい」という思いがある。
これは決して魔法ではなく、日々の行動や周囲の関わりを変えていく現実的な力になっています。

「言葉にすること」が周囲を動かす

「こうしたい」と口にすることは、周囲を巻き込む力になります。
言葉にすることで、本人の思いが見える形になり、家族や医療者もそれを共有することができる。医師が「この人は会社に行きたいと思っている」と知れば、リハビリや薬の調整もその目標に沿ったものになりますし、家族もそれを支える体制を考えることができます。

言葉にすることは、自分の中でも「こうなるために今何をするべきか」を意識するきっかけになります。
行動が変わり、周囲も変わり、結果的に「思い描いた未来」に近づいていく。引き寄せの法則の核心は、こうした”意識の連鎖”にあるのかもしれません。

憧れが道を開くこともある

医療とは少し離れますが、異なる業界や世代の人たちとの交流の中で、自分の価値観や行動が変わることがあります。

たとえば、内田の趣味であるクラシックカーのレースに出る60代の先輩たちとの出会い。
自分とは違う道を歩んできた人たちの生き方やエネルギーに触れることで、「自分もこうなりたい」と新たな目標が生まれる。そうしてまた、自分の未来に対するビジョンが更新されていくのです。

在宅医療の現場でも、「あの人があそこまで頑張っているなら、自分も」と思わせてくれる存在は、大きな力になります。
目標がある、憧れがある、そうした想いが人の背中を押し、行動を変え、結果として状態が変わっていくのです。

想像できる未来が、人生を変える

終末期に差し掛かると、「自分の人生は終わってしまった」と感じる患者さんもいます。
話すことが難しくなり、体を動かすこともできず、ただ栄養が管から入ってくるだけの毎日。そのような中でも、「今は静かに整理しているんだ」と淡々と語る方もいます。

そんな方がもし、「もう一度家族で写真を撮りたい」「季節の花を見たい」と小さな目標を立てたなら、そこから日々の過ごし方が少しずつ変わるかもしれません。想像できる未来を持つこと、それは生きる力につながります。

「思い描くこと」は、誰にでもできる

医療には限界があります。でも、「どんなふうに生きたいか」「何を目指して日々を過ごしたいか」を考えることは、誰にでもできることです。そして、その思いを誰かに伝えることも、すぐにできる第一歩です。

言葉にすること、目標を持つこと、誰かを憧れること。それらはすべて、自分の未来を少しずつ形づくっていく力になります。「こうありたい」と願う気持ちを、大切にしていきたい。医療の現場にいる私たちは、そうした思いのそばに、いつも寄り添っていたいと考えています。