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家で見送るという選択_その人らしさを守る在宅看取りのすすめ



在宅で“その人らしさ”を守るということ

最期の時間を「病院ではなく、自宅で過ごしたい」と望む人が増えています。
背景には、医療の高度化によって延命治療が容易になった一方で、「家で家族に囲まれながら穏やかに過ごしたい」という気持ちを大切にしたいという思いがあります。

在宅医療は、病院のような機器や人手は限られますが、本人と家族の希望を中心にしたケアが可能です。
「医療の場」から「生活の場」へと視点を切り替えることで、食事や会話、外出など、“その人らしい時間”をできるだけ長く保つことができます。

家族の意思をそろえる_ACP(人生会議)の第一歩

在宅看取りを円滑に進めるうえで欠かせないのが、Advance Care Planning(ACP:アドバンス・ケア・プランニング)です。
これは「どこで、どのように過ごしたいか」を前もって話し合う取り組みのこと。
本人が元気なうちに、家族と一緒に“話しておく”ことが、結果的に家族の迷いを減らします。

たとえば、
  • 延命治療を望むか
  • 自宅での看取りを希望するか
  • 誰に判断を任せたいか

といった話題を、ざっくばらんに話し合うだけでも十分です。
明確な結論が出なくても、「話してみた」という経験が大切です。

遠方に住む家族がいる場合は、ビデオ通話やグループチャットなどを活用し、情報を共有しておくと安心です。
誰が主な介護を担うのか、緊急時の連絡は誰が行うのかなどを決めておくと、いざというときに慌てずに済みます。

症状への支えは「生活を続けるため」に

在宅で過ごす終末期では、痛みやかゆみ、だるさ、呼吸の苦しさなど、さまざまな身体の辛さが現れます。
それらをできる限り和らげ、穏やかに過ごせるように整えることが、在宅医療チームの重要な役割です。

たとえば、
  • 皮膚の乾燥や掻痒には保湿剤やステロイド外用
  • 痛みには鎮痛薬や貼付薬
  • 呼吸苦には酸素や安定剤の調整
  • 食事が難しくなったら、好きな味を少しずつ楽しむ工夫
など、医療と生活を両立する支援が行われます。

病院のように検査や点滴で“治療を積み重ねる”のではなく、「治療を増やすより、心地よく暮らす工夫を」が在宅の特徴です。
医療者は症状を抑えるだけでなく、「どうすれば本人が気持ちよく過ごせるか」を一緒に考えます。

別居介護でもできること

最近は、同居していなくても在宅看取りを支えるケースが増えています。
離れて暮らす家族ができる支援として、次のような方法があります。

・介護保険を早めに申請する
介護度の認定が下りるまでに1~2カ月かかるため、早めの手続きが安心です。

・訪問看護・訪問介護を組み合わせる
医療面と生活面の両方をサポートできるようにチームを組みましょう。

・オンラインの見守りを活用する
カメラやタブレットを活用すれば、遠方からでも表情や様子が確認できます。

・家族内で役割を明確にする
昼・夜・連絡係など、それぞれが無理なく関わる形を作るのがポイントです。

“家族全員で頑張る”必要はありません。
少しずつ協力しながら、「できることを持ち寄る」姿勢が長続きのコツです。

夜間の不安にどう備えるか

在宅でよくある不安のひとつが「夜に何かあったらどうしよう?」という心配です。
この不安を和らげるには、「夜間の動線」を見える化することが効果的です。

  • 緊急連絡先(訪問看護・医療機関)をまとめて冷蔵庫などに貼る
  • よくある症状への対応(痛み・発熱・呼吸苦など)をメモしておく
  • 医師・看護師が来るまでの過ごし方を家族で話し合っておく

不安なときは「様子を見よう」と我慢せず、まずは相談を。早めの連絡で不安を小さくできることが多くあります。

後悔を小さくするためにできること

どんなに準備をしても、「もっとこうしてあげればよかった」と感じる瞬間はあります。
それでも、「家で過ごせた」「本人の望む形に近づけた」という実感は、大きな安心につながります。

完璧を目指すより、
  • その時の最善を選ぶ
  • 思いを共有する
  • できたことを大切にする
この3つを意識することで、後悔は小さくなります。
“いい看取り”は、完璧ではなく納得の積み重ねから生まれます。

今日できる一歩から

在宅での看取りは、医療だけでなく、家族の思いと日常の工夫で成り立つケアです。まずは「もしものとき、どこで過ごしたいか?」を家族で5分だけ話し合ってみましょう。
その小さな一歩が、その人らしい最期を叶える第一歩になります。