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Home >  在宅診療の教科書 >  家で生きることを支える在宅医療_“医療3割・生活7割”の時代へ_

家で生きることを支える在宅医療_“医療3割・生活7割”の時代へ_



はじめに

近年、訪問診療や在宅医療を利用する方が増えています。
かつては「家で医療を受ける=看取りが近い」というイメージが一般的でしたが、現在はその役割が大きく変わっています。医療機器の進歩や支援体制の拡充により、難病や重度の障がいがある方でも、自宅で日常生活を続けることができるようになりました。

2025年11月22日に行われた講演では、当法人理事長内田が、“医療と暮らしの関係”を深く見つめながら、これからの在宅医療のあり方について語りました。

病院より家の方が長く過ごせる_そんな時代に

「家に帰ったら早く弱ってしまうのでは?」
そんな不安を抱く方もいます。しかし実際のデータでは、一定の条件が整えば家の方がストレスが少なく、病院よりも長く過ごせるという結果が示されています。

現在、日本で亡くなる方の約8割が病院ですが、医療体制の変化により、今後は欧州のように病院、介護施設、自宅が均等に看取りの場となる社会を目指しています。

病院の役割が変わり、退院が早くなる一方で、地域で支える医療の重要性はさらに高まっています。

訪問診療ができることは想像以上に多い

訪問診療と聞くと、「簡単な診察しかできないのでは?」と思われがちです。
しかし現在の訪問診療には、次のような医療が含まれています。

  • 点滴・抗生剤
  • 酸素投与
  • 心電図・超音波などの検査
  • レントゲン撮影(携帯型の機器で可能)
  • 排泄・栄養などの医療的ケア
  • 24時間の緊急対応

さらに、人工呼吸器・胃ろう・中心静脈栄養など、かつては病院でしか扱えなかった医療機器にも対応できるケースが増えています。

在宅医療は単なる「簡易医療」ではなく、生活を支える総合的な医療へと進化しています。

医療ではなく“暮らし”が中心に

講演で内田が繰り返し強調していたのは、「医療は生活の中の3割、残りの7割は暮らしそのもの」という考え方です。

病院は医療が中心ですが、家では医療は“暮らしを守るための道具”でしかありません。

たとえば_

  • 1日3回の薬が飲めず、生活リズムが乱れてしまう
  • 手が不自由で、従来のやり方でドアを開けられない
  • 家事が少しずつできなくなり、体調の変化に気づきにくい

こうした生活の小さな変化が病気のサインになることもあります。

訪問診療では、医師が家の環境・暮らしぶりを見ながら、「この薬は負担になっていないか」「動作を別の方法に変えれば生活が続けられるのでは」といった視点から、一緒に解決策を探していきます。

その人らしい“役割”を取り戻す支援

在宅医療では、ただ医療行為を続けることが目的ではありません。生活の中で失われかけていた役割や居場所を取り戻すことが、大きな支えになります。

  • 動けなくても、家族の宿題を見守る
  • 会話が難しくても、表情やまなざしで参加する
  • イベントや家族行事に「その人らしい形」で参加する

身体の一部が動かなくなっても呼吸が弱くなっても、“その人の役割”は失われない”という視点が、在宅医療の根底にあります。

人生の選択は早い段階から

内田が最後に語った大切なテーマが「ACP(アドバンス・ケア・プランニング)」でした。
これは、将来の体調変化に備えて、家族や医療者と「どのように生きたいか・どの医療を受けたいか」を話し合っておく仕組みです。

日本では、延命治療や終末期について話す文化が十分に浸透していません。
しかし、病気が進行してから急に選択を迫られると、本人の望みを正しく反映できないことがあります。

だからこそ_元気なうちから、自分の価値観を共有しておくことが大切、と内田は強調していました。

おわりに

医療の進歩により、私たちは「病院で最期まで治療を受ける」だけではなく、“家で、自分らしく生き続ける”という選択肢を手に入れました。

在宅医療は、患者さん・家族・医療者が一緒に考え、一緒に悩みながら、その人らしい人生を支えるための仕組みです。

これからの時代、医療はさらに自宅へ近づき、家はもっと“人生を過ごす場所”になっていくでしょう。
※本コラムは2025年11月22日に行われた講演「その人らしさを支える医療とは~在宅の現場から見えてきたこと~」をもとに、コラム用に加筆・修正いたしました。

YouTubeにて講演の様子を公開中!

★本講演の様子を貞栄会公式YouTubeにて公開しました!
→動画はこちらから